近年、全国的に「公立フリースクール」への注目が集まっています。文部科学省の調査によると、小中学校における不登校の児童生徒数は過去最多を更新し続けており、従来の学校教育の枠組みだけでは対応しきれない現状があります。こうした中、自治体が主導して子供たちの居場所を作る動きが加速しています。
この記事では、公立フリースクールが増えている背景や、具体的な施設の種類、民間施設との違いについて、不登校のお子さんを持つ保護者の方にも分かりやすく解説します。お子さんに合った新しい学びの場を探すためのヒントとして、ぜひ最後までお読みください。
1. 公立フリースクールが増えている社会的背景と理由

なぜ今、公立のフリースクールがこれほどまでに増えているのでしょうか。その背景には、子供たちを取り巻く環境の急激な変化と、国や自治体による教育方針の大きな転換があります。まずは、社会全体でどのような意識の変化が起きているのかを詳しく見ていきましょう。
不登校児童生徒の過去最多更新と意識の変化
文部科学省の最新の調査では、不登校の小中学生は約30万人に達し、10年連続で増加していることが明らかになりました。この数字は、クラスに2人から3人は学校に行きづらさを感じている子供がいることを示しています。もはや不登校は、決して珍しいことでも、特別な家庭だけの問題でもなくなっています。
かつては「学校に行くのが当たり前」という価値観が強く、不登校は「解決すべき問題」として捉えられていました。しかし現在は、無理に登校を促すのではなく、「まずは子供の心を休ませること」や「学校以外の場所で学ぶこと」の重要性が広く理解されるようになってきました。こうした社会全体の意識の変化が、公的機関による支援の拡充を後押ししています。
不登校になる理由は、友人関係、学習の遅れ、先生との相性、さらには本人にも説明できない漠然とした不安など、多岐にわたります。画一的な教育制度だけでは受け止めきれなくなった子供たちのために、多様な選択肢が必要とされているのです。
教育機会確保法と文部科学省の強力な後押し
2016年に施行された「教育機会確保法」は、日本の教育における大きな転換点となりました。この法律では、学校以外の場所での学習の重要性が初めて公に認められました。不登校の子供たちが「休養」を必要としていることや、学校に戻ることだけを最終目標にしないことが明文化されたのです。
さらに文部科学省は、不登校対策の新たな指針として「COCOLOプラン」を発表しました。これにより、全国の自治体に対して、不登校の子供たちが誰一人取り残されないよう、学びの場を整備することが強く求められるようになりました。この国の強力な方針転換が、自治体が公立フリースクールの設置に乗り出す最大の理由となっています。
これまで民間任せだった不登校支援に、国が予算を投じ、制度を整え始めたことは、保護者にとっても大きな安心材料です。不登校は「本人の努力不足」ではなく、「教育システムとして支えるべき対象」へと明確に変わったのです。
自治体が主導する「居場所づくり」の加速
国の動きに合わせ、全国の自治体も独自に「公立フリースクール」に近い役割を持つ施設の設置を急いでいます。これまでは「適応指導教室」と呼ばれていた施設が、より子供たちのニーズに寄り添った形にリニューアルされたり、新しい形態の学校が新設されたりしています。自治体が主体となることで、地域全体のセーフティネットとして機能し始めています。
例えば、東京都や神奈川県などの都市部だけでなく、地方自治体でも空き教室や公共施設を活用した居場所作りが盛んです。民間施設が少ない地域では、自治体が設置する公的な場所が、子供たちにとって唯一の「家以外の安心できる場所」になるケースも少なくありません。
自治体が主導する利点は、福祉や医療といった教育以外の部局とも連携しやすいことです。スクールソーシャルワーカーや専門のカウンセラーを配置し、学習支援だけでなく生活全体のサポートを行える体制が整いつつあります。公的な支援が広がることで、親御さんの孤立を防ぐ役割も果たしています。
2. そもそも「公立フリースクール」とは?主な種類と特徴

「公立フリースクール」という言葉は、実は正式な法律用語ではありません。一般的には、自治体が設置・運営している、不登校の子供たちのための学びの場や居場所の総称として使われています。具体的にはどのような施設があるのか、代表的な3つの形態について整理してみましょう。
名称が変わった「学びの多様化学校(不登校特例校)」
これまで「不登校特例校」と呼ばれていたものが、より前向きなイメージを持てるよう、令和5年から「学びの多様化学校」という名称に変更されました。これは、文部科学省の認可を受けた正式な学校の一種です。最大の特徴は、一般的な学校が守らなければならないカリキュラムの基準を、大幅に柔軟化できる点にあります。
例えば、授業の開始時間を遅く設定したり、年間の総授業時間を短縮したりすることが可能です。また、教科書通りの学習だけでなく、体験学習や自分の興味がある分野を掘り下げる探究学習に多くの時間を割くことができます。子供の心身の状態に合わせて、無理のないペースで卒業資格を得られることが大きなメリットです。
現在、全国の都道府県や政令指定都市に少なくとも1校以上設置することを目指して増設が進んでいます。少人数クラスで、先生たちも不登校への理解が深いため、「学校という形は保ちたいけれど、普通の学校には通えない」という子供にとって、理想的な環境といえるでしょう。
身近に増える「校内フリースクール(校内サポートルーム)」
最近、多くの公立中学校などで導入されているのが「校内フリースクール」や「校内サポートルーム(スペシャルサポートルーム)」と呼ばれる場所です。これは、自分のクラスには入れないけれど、学校には来られる子供たちのために、通常の教室とは別に用意された専用の部屋のことです。
ここでは担任の先生ではなく、専任の指導員やボランティアが子供たちの対応にあたることが多いです。一斉授業を受ける必要はなく、自分で持ってきた教材で勉強したり、静かに読書をしたりして過ごすことができます。給食だけ食べに来る、あるいは放課後だけ顔を出すといった柔軟な利用が認められているのも特徴です。
学校の中に「別の居場所」があることで、子供は「学校という場所」そのものに対する拒絶感を和らげることができます。また、クラスの友達との接点を完全に断たずに済むため、再登校に向けたステップとしても活用されています。通い慣れた校内にあるため、保護者にとっても送迎の負担が少なく、利用しやすい形態です。
地域の拠点となる「教育支援センター(適応指導教室)」
以前から存在する「適応指導教室」ですが、現在は「教育支援センター」という名称で、より幅広いサポートを行う拠点へと進化しています。多くの自治体が市役所の別館や公民館などに設置しており、不登校の子供たちが日中過ごせる場所として機能しています。ここも、通うことで在籍校の「出席扱い」になることが一般的です。
教育支援センターでは、元教員や臨床心理士などがスタッフとして配置され、子供の相談に乗ったり、学習のサポートをしたりします。また、調理実習やスポーツ大会、遠足などのレクリエーション活動も行われており、他校の不登校の子供たちと交流できる貴重な場にもなっています。
「学びの多様化学校」のように毎日通わなければならないわけではなく、週に数回、数時間だけの利用も可能です。まずは家庭以外の場所に出る練習をしたい、という子供にとって最初のステップとして適しています。教育委員会が直営しているため、学校との情報共有もスムーズに行われるのが特徴です。
公立フリースクールの主な種類
・学びの多様化学校:柔軟なカリキュラムで卒業を目指す正式な学校
・校内サポートルーム:通常の校舎内に設置された安心できる別室
・教育支援センター:地域の拠点で相談や交流、学習を行う施設
3. 公立フリースクールを利用する大きなメリットと安心感

民間ではなく公立の施設を選ぶことには、経済面や制度面で非常に多くのメリットがあります。不登校が長期化すると、将来への不安や家計への負担が重くのしかかりますが、公的な支援をうまく活用することで、それらの悩みを大きく軽減できる可能性があります。
経済的な負担を抑えて通える費用の安さ
保護者にとって最大の現実的なメリットは、費用の安さです。民間のフリースクールに通う場合、入学金や月謝で月に3万円から5万円、年間では数十万円の費用がかかることが一般的です。これは多くの家庭にとって、決して軽い負担ではありません。
一方、公立の教育支援センターや校内フリースクールは、原則として無料で利用できます(教材費や実費のみ負担する場合もあります)。また、「学びの多様化学校」も公立であれば、通常の小中学校と同様に授業料はかかりません。経済的な理由で子供の居場所を諦めなくて済むのは、公立ならではの大きな強みです。
不登校の時期は、出口が見えずに不安になりやすいものです。いつまで続くか分からない状況の中で、月々の固定費を抑えられることは、親の精神的な安定にもつながります。家計を圧迫することなく、子供に「家以外の居場所」を提供できる選択肢として、公立施設は非常に心強い存在です。
在籍校との連携による「出席扱い」の確実性
中学生以上のお子さんを持つ保護者にとって、最も気になるのが「出席日数」ではないでしょうか。日本の高校受験では、内申書(調査書)に出席日数が記載されるため、学校に行けないことが進路の不利にならないか心配されるのは当然です。公立フリースクールは、この点において非常に優遇されています。
教育委員会が運営する施設や学びの多様化学校に通った場合、在籍している学校の校長の判断により、比較的スムーズに「指導要録上の出席」として認められます。民間施設でも出席扱いにできる制度はありますが、学校側との細かな調整や報告書の提出が必要になることが多く、ハードルが高い場合もあります。
公立施設であれば、施設から学校へ出席状況が定期的に報告される仕組みが整っているため、保護者が何度も学校と交渉する手間が省けます。「通っている場所で頑張っていることが、公式に認められる」という事実は、子供本人の自己肯定感を高めることにも大きく寄与します。
教員免許を持つスタッフによる手厚い学習支援
公立の施設には、元教員や現役の教員、教育委員会が採用した専門の指導員が常駐しています。教育のプロが関わっているため、教科の学習指導だけでなく、最新の入試情報や進路の相談にも的確に応じてもらえる安心感があります。不登校でブランクができた勉強を、本人の理解度に合わせてサポートしてもらえます。
また、スタッフは不登校の子供たちの心理状態についても研修を受けていることが多く、無理をさせない絶妙な距離感で見守ってくれます。ただ勉強を教えるだけでなく、「今日は疲れているから、おしゃべりだけにしよう」といった、その日のコンディションに合わせた柔軟な対応が期待できます。
民間のフリースクールも熱意あるスタッフが多いですが、公立施設は「義務教育としての質」を担保しようとする姿勢が強いのが特徴です。学校の教科書に準拠した進め方や、ICT(デジタル教材)を活用した学習など、学習の遅れを取り戻したいと考えている子供にとっては、非常に効率的な環境が整っています。
公立施設では、スクールカウンセラーとの面談がセットになっていることも多いです。子供だけでなく、保護者の悩みも専門家に相談できる体制が整っているのが心強いポイントです。
4. 民間のフリースクールとの違いと上手な選び方

公立の施設が増えている一方で、民間のフリースクールも独自の魅力を持ち続けています。どちらが良い・悪いということではなく、お子さんの性格や現在の状況に合わせて、最適な場所を選ぶことが大切です。ここでは、公立と民間の違いを詳しく比較してみましょう。
カリキュラムの柔軟性と活動内容の比較
公立のフリースクールや教育支援センターは、どうしても「学校の延長線上」にあることが多く、学習指導要領を意識した活動がメインになりがちです。規則正しく午前中からスタートする施設も多く、社会復帰を目指す上では良い練習になりますが、強いプレッシャーを感じてしまう子供もいます。
対して民間のフリースクールは、「その子の個性を伸ばすこと」に特化した独自のカリキュラムを持つ場所が多くあります。例えば、1日中ゲームやeスポーツをして過ごして良い場所、本格的なアート活動ができる場所、農業体験ができる場所など、多種多様です。何かに没頭することで元気を取り戻したい子供には、民間の方が向いている場合があります。
「勉強はまだしたくないけれど、同世代と触れ合いたい」のか、「勉強の遅れを取り戻して、高校進学に備えたい」のか、子供の希望を最優先に考えましょう。公立は「安心と標準的な学び」を、民間は「自由と特化した体験」を提供しているというイメージで使い分けるのが一つの基準です。
運営体制による雰囲気や通いやすさの差
雰囲気の面では、公立施設は「静かで落ち着いた学習空間」であることが多いです。一方で民間施設は、マンションの一室や古民家などを活用していることもあり、アットホームで家族のような距離感であることが多いです。大規模な施設が苦手な子供にとっては、民間のこじんまりとした空間の方がリラックスできるかもしれません。
通いやすさについては、公立施設は自治体内の便利な場所に設置されていることが多いですが、利用時間が15時や16時までと、比較的早く閉まってしまう傾向があります。民間施設は夜まで開いていたり、オンラインでの参加を認めていたりと、ライフスタイルに合わせた柔軟な利用が可能なケースが多いです。
また、公立施設は夏休みや冬休みなどの長期休暇期間は、通常の学校と同じように休館になることが一般的です。年間を通じて一定のリズムを保ちたい、あるいは長期休暇中こそ居場所が必要だと感じる場合は、民間の運営スケジュールの方が合っていることもあるでしょう。
子供の状況に合わせた最適な環境の判断基準
どちらを選ぶべきか迷った際は、まず「子供が何に苦しんで学校に行けなくなったのか」を振り返ってみてください。学校特有の「管理されている雰囲気」が苦手な子供にとって、先生が主導する公立施設は、学校の辛さを思い出させてしまう「学校のミニチュア版」に見えてしまうことがあります。
逆に、学校に行けないことで「みんなと同じことができていない」と焦りを感じている子供にとっては、公的な教育委員会が認めている場所という安心感が、本人の自信につながります。まずは公立のセンターを見学してみて、本人の顔色が曇るようであれば、より自由度の高い民間の選択肢を検討してみるのがスムーズです。
最終的な決定権は子供本人に持たせてあげてください。親が良かれと思って決めた場所よりも、本人が「ここなら行ってみてもいいかも」と少しでも思える場所の方が、長続きしやすく、心の回復も早くなります。見学の際は、スタッフとの相性や、そこに通っている他の子供たちの雰囲気をじっくり観察しましょう。
5. 公立フリースクールの探し方とこれからの課題

公立フリースクールは急速に増えていますが、全国どこでも同じように利用できるわけではありません。また、設置されたばかりの施設も多く、これから改善していくべき点もあります。実際に利用を検討する際に知っておきたい探し方のコツと、現在の課題をお伝えします。
住んでいる地域の設置状況を調べる方法
まずは、お住まいの自治体にどのような施設があるかを確認することから始めましょう。最も確実なのは、市区町村の「教育委員会」のホームページを確認することです。「教育支援センター」「適応指導教室」「不登校支援」といったキーワードで検索すると、詳細な案内が見つかるはずです。
ホームページの情報だけでは不十分な場合は、在籍している学校の担任の先生や、スクールカウンセラーに尋ねてみてください。学校側は地域の支援施設についての情報を持っており、見学の手配を代わりに行ってくれることもあります。直接教育委員会に電話をして「不登校の相談をしたい」と伝えるのも一つの方法です。
最近では、近隣の自治体の施設も相互に利用できるような広域連携を行っている地域も増えています。自分の市にはなくても、隣の市にある施設なら通える、というケースもあります。諦めずに、市役所の窓口などで情報を集めてみましょう。民間団体が発行している「地域不登校ガイドブック」なども非常に参考になります。
地域による設置数の格差と待機児童の問題
公立フリースクールが増えているとはいえ、まだ大きな地域格差が存在します。東京都などの都市部では選択肢が豊富にありますが、地方都市や過疎地域では、片道1時間以上かけないと施設がないといった現状もあります。また、設置されていても定員がいっぱいで、すぐに通い始められない「待機児童」の問題も出始めています。
特に、不登校児童数が急増している地域では、施設のキャパシティが追いついていないことがあります。見学に行って「いいな」と思っても、週に1回しか通えない、あるいは数ヶ月待ちと言われるケースも少なくありません。こうした格差を埋めるため、国は「誰一人取り残されない」という旗印のもと、さらなる拡充を急いでいます。
もし、近くに施設がない、あるいは満員で入れない場合は、諦めずに「家庭での学習が出席扱いになる制度」がないか確認してみてください。施設に通うことだけが解決策ではありません。自治体によっては、ICT(タブレット学習)を活用した自宅学習をサポートしてくれる仕組みを整えているところもあります。
オンライン授業や家庭訪問など多様な支援への期待
これからの公立フリースクールの課題は、ただ「場所を作る」だけでなく、外に出ることが難しい子供たちをどう支えるかに移っています。現在、多くの自治体で「オンラインでの居場所作り」が試行されています。自宅にいながらメタバース(仮想空間)上の教室に登校し、アバターを通じて友達と交流したり授業を受けたりする取り組みです。
また、家から出られない子供のために、スタッフが家庭を訪問する「アウトリーチ支援」を強化している自治体も増えています。施設に来ることをゴールにするのではなく、まず本人の心の安全を確保し、社会とのつながりを細く長く維持すること。これが、公立フリースクールに求められる新しい役割です。
将来的には、リアルの施設、オンラインの場、そして家庭訪問を組み合わせた、ハイブリッドな支援体制が標準になっていくでしょう。公立フリースクールの増加は、単なる「ハコモノ」の増加ではなく、「どんな子供の状況にも対応できる柔軟なセーフティネット」へと教育システムそのものが進化していく過程なのです。
まとめ:公立フリースクールが増えている今、子供に合った「第3の場所」を見つけよう
この記事では、全国で公立フリースクールが増えている理由や、その種類、メリットについて詳しくお伝えしてきました。不登校の子供たちが増え続ける中、これまでの「学校か、家庭か」という二択ではなく、その中間にある「第3の場所」としての公立施設は、家族にとって大きな支えとなります。
最後に、記事のポイントを振り返ってみましょう。
記事のまとめ
・不登校の急増と「教育機会確保法」により、国と自治体が設置を強力に進めている
・「学びの多様化学校」や「校内サポートルーム」など、ニーズに合わせた種類がある
・公立は費用が原則無料で、学校との連携や出席扱いもスムーズというメリットがある
・民間施設はより自由で個性的な活動ができるため、子供の性格に合わせて選ぶのが吉
・近くの施設は教育委員会や学校を通じて探せるが、地域格差などの課題も残っている
公立フリースクールが増えているという事実は、社会が「学校に行けない子供」を切り捨てるのではなく、全力で受け止めようとしている証でもあります。もし今、お子さんが苦しんでいるのであれば、一人で抱え込まずに、こうした公的な支援の扉を一度叩いてみてください。
完璧な解決を急ぐ必要はありません。お子さんが少しでもリラックスでき、自分らしくいられる場所を見つけることが、最初の大切な一歩になります。自治体の窓口や学校の先生と相談しながら、焦らずゆっくり、お子さんにぴったりの新しい学びの場を一緒に見つけていきましょう。


